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12.9 福本智之フォーラム 事後報告

目次


※講演スライドはこちらをクリック


■フォーラムの案内文書


◆企画の趣旨

中国経済の「苦境」が伝えられます。一方では、地方政 府による土地を担保とする過剰な 金融拡 張→不 動 産 投 機 の不良債権化の重圧、他方では、アメリカが「(中国を共 同利害パートナーとする)ステイク・ホルダー政策からの 転換」→対中国経済分断政策(デカップリング)へと転換したことです。国内投資の減少や 若者の失業、さらには、一帯一路政策からの欧州諸国の撤退が伝えられています。

実際は、どうなのか?世界資本主義フォーラムでは、12月、中国経済について公正な立 場から観察・分析を進めてきたお二人の研究者に講演をお願いしました‥

12月9日福本智之先生、12月23日丸川知雄先生です。 [世界資本主義フォーラム・矢沢国光]


●主催:世界資本主義フォーラム

●日時 :2023 年 12 月 9 日(土)午後1時30分~3時30分

※いつもより時間が短いことにご注意ください。

●開催方式:ZOOM によるオンライン

●テーマ :「中国経済の現状と課題」

●講師:福本智之(大阪経済大学教授)

1966 年生まれ。日本銀行国際局総務課長、北京事務所長等を経て、2021 年 4 月より 大阪経済大学経済学部教授に就任。

著書 『中国減速の深層 「共同富裕」時代のリスクとチャンス』日経 BP 社 2022.6

●参加方法:どなたも参加できます




■フォーラムの経過

午後1時 30 分開始。司会者(矢沢国光)による講師紹介の後、 1時 35 分~2時 50 分講師がスライドに沿って講演。

※スライドは こちらをクリック

5分間の休憩後、質疑。

3時 25 分 終わりの言葉(世界資本主義フォーラム顧問・河村哲二)

3時30分 終了。 参加者 22名



■司会者(矢沢国光)の感想

1 「短期動向」で、リチャード・クーの「バランスシート不況論」の話があった。中国 の成長鈍化の解明にこれがもてはやされていると言う。

2020 年代の中国の成長鈍化と 1990 年代の日本のデフレ経済の、共通性と異質性は何か、 大いに興味をそそられるお話であった。

日本の 1990 年代半ば以降の長期デフレは、株価・地価の上昇から(土地を担保とする金 融機関の融資の拡大によって)企業・家計が株式や不動産への投資に突っ走り、「資産バブル」 となった。トヨタのような一流の製造業会社も「財テク」に走ったことが話題となった。こ のバブルは、株価・不動産価格の暴落で崩壊し、大手の銀行・証券会社が相次いで倒産した。 企業・銀行の資産の不良債権化は拡大の一途をたどり、企業は、利潤を設備投資などの生産 に投資する代わりに、バランスシートの改善につぎ込んだ。

日本の製造業企業も、バブル崩壊で不良債権を抱えることになった。中国では、不動産関 連企業以外の企業でも本業以外の金融資産投機によるバランスシ ートの悪化が あ っ た の だ ろうか?株価の下落による「資産バブルの崩壊」もあったのだろうか?


2 「国営企業と民営企業のいいとこどり」という話は、なるほどと思った。「中国は、社 会主義か資本主義か」といった議論が抽象的で無意味なことを示している。というか、中国 に限らず、日本でも、鉄道・電力・原発は国有企業もしくは事実上の国有企業による。最近 では、経産省が半導体工場に巨額の政府資金を投入している。


3 習近平政権は「共同富裕」を改めて強調しているが、「共同富裕」を目指すことは「先 富論」を否定することではない、と福本先生は言う。「国営企業と民営企業のいいとこどり」 はわかるが、「先富論による共同富裕」となると、「共同富裕」の考え方が「経済成長→パイ の拡大」を基礎にしているように思える。他方では、「格差の拡大 」の阻止が「 共 同 富 裕 」 への道ともされる。ようやく「最貧国」から抜け出した中国にとって、「経済成長→パイの 拡大」はまだしばらく必要ということだろうか。


4 その「格差拡大」問題であるが、「格差」を大きくしているのは、所得格差ではなく 、 資産格差だという。ところが中国には、資産格差の縮小に役立つ相続税も固定資産税もない という。税制・財政による再分配や社会保障制度なしに「共同富裕」の実現は見通せないの ではないか。


5 米中対立問題では、バイデン政権サリバン安全保障担当補佐官の「小さな庭と高いフェンス」についての講師(福本先生)のコメントが印象的だった。アメリカは、対中国の自由 貿易から転換して、国家安全保障に関連する分野(「小さな庭」)では輸出や投資の規制(「高 いフェンス」)を始めた。ところが、これにたいして、アメリカ企業の側から悲鳴が上がり、 米中貿易の絶対額は減っていないという。ただ、「中国→米国」の直接の輸出から「中国→ ASEAN→米国」の輸出への転換が加速していると講師は言う。

 アメリカは、貿易収支の赤字を中国や産油国からの「ドルの還流」でカバーしてきたが、 ウクライナ戦争など国際政治の変化でそれも危うくなっており、 製造業の国内 回 帰 を 必 死 に進めている。トランプ現象の基盤となっている「製造業労働者の不満・不安」が喫緊の課 題となっている。安全保障のための「小さな庭・高いフェンス」よりこちらの方がアメリカ にとって大きな問題になっているのかもしれない。


6 不動産バブル崩壊問題と米中経済摩擦問題は、12月23日の丸川知雄フォーラムで も引き続き論議されることになっている。中国経済の「危機」がいまにも習近平政権の足元 をすくうかのような乱暴な「観測」ではなく、中国経済の社会科学的な認識が、福本・丸川 両先生の連続講演で深められることを期待しています。



■参加者アンケート回答から

●渡辺 均(長野県小海町)

9日の講座、先生の簡潔な指摘、コメントは大変、判りやすく受け止めました。 中国の出す資料類の信ぴょう性などにも適切な評価で、これから 中国の発表する数値の

取り扱い方にも、参考になりました。今までは、概して半信半疑で受け止めていましたが、 それなりに評価しなければ、と「思いました。

 中国経済は、概ね低いながらも安定的に推移するように受け止めました。

以降のテーマかもしれませんが、語られた中国経済の動向が、これから日本経済に、或い は、中国経済の動向が、中国の対日本政策にどのように反映されるのか、といった視点での 先生の見解をお聞かせいただければ、と思いました。質問しようと思いましたが、時間など もあり控えました。

また、経済動向と、対台湾への動向がどのように差配されるのか、経済学とは位相の違う テーマになりますが、経済動向との関りをお聞かせいただければ、とも思いました。


●椎名鉄雄

この度の先生のお話は大変勉強になりました。 私は、一人の老人に過ぎませんが、中国には関心を持っています。むしろ大きな期待を抱いていました。しかし、その期待がしぼみつつあるような感覚に襲われる時があります。独 裁的資本主義国になってしまったのかという失望です。特に共産党員、一部の富裕層と一般市民との格差は歴然たるものがあります。これが共産主義国の姿なのでしょうか。経済分析 手法も全く資本主義経済分析と同じようですね。

 福本先生のお話で、少しは今の中国の姿が見えてきました。 感謝いたします。

●安岡正義(ちきゅう座会員、大分大学名誉教授:18 世紀ドイツ文化専攻)

〔 感 想 〕講 師 の 福 本 智 之 先 生 に 心 よ り 御 礼 申 し 上 げ ま す 。豊 富 な 情 報 量 に 先 ず 圧 倒 さ れ 、政 策の変遷等も良く理解できました。

ところで私は定年退職前の約 5 年間、大学の国際交流の仕事に携わり、中国を計 5 回訪 問(ちなみにウクライナを 2 回訪問。3 回目はマイダン「革命」直後の混乱のためにキャン セル)しました。また 2016 年春には初めて台湾の大学に招待され、修士課程の学生を相手 にして「ドイツのマス・メディアに現れた日本(人)像」をテーマに集中講義を行いました。 その際に台湾の人々の日常生活の一端にも触れました。

専門家ではないので、個人的な体験を幾つか思い出してみると、蘇州のスターバックスで コーヒーを飲んだ際、日本円で約 600 円でした。高いなと思いつつ、この値段で営業でき ているのなら、市民の収入も高いのだろうと想像しました。全くの仮定ですが、生活に困ら ない層が国民の 1 割だとしても、実数は 1 億4千万人になるので、1割に「すぎない」との 判断は実態を歪めてしまうのではと思います。また蘇州空港まで 同行してくれ た 中 国 人 通 訳の話では、多くの市民が裕福になり日本旅行に行く人も多い、中国でも免税扱いで持ち帰 ることの出来る品物の個数には上限があるものの税関当局は実は 目をつぶる、 そ れ に よ っ て政府は意図的に消費者の欲望を黙認しつつ政府に不満が向かな いようにして い る 、 と の ことでした。また私の指導した中国からの女子留学生が、望ましい結婚相手として1マンシ ョンを持っている2自家用車、それも出来れば外車を持っている 3結婚したら ク レ ジ ッ ト カードを自分に渡してくれる男性、と言ったので少し驚いたことがあります。政府も、権力 の正統性を支える大きな要素として「民生の安定」(←これ自体は共産党の特徴とは言えな い)を重視しているようです。


〔 質 問 〕今 年 の 7 月 に ア メ リ カ の イ エ レ ン 財 務 長 官 が 中 国 を 訪 れ ま し た 。ア メ リ カ 国 債 を 買ってもらうための交渉が目的である、との報道がありますが、これは事実でしょうか?ま た事実とすれば、われわれはアメリカの「国力」をどう理解すれば良いのでしょうか?


●高原浩之

中国の「日本化」がテーマで、結論は「現下の中国の発展段階は一人当り GDP の向上余

地、都市化の余地などからみれば、90 年代の日本に比べてまだ『若い』。」(p19)

こう理解しました。そうだと考えます。しかし、日本と比べるのであれば、バブルが崩

壊し長期停滞が始まった 90 年代だけではなく、70~80 年代から考えるべきでしょう。

日本だけでなく、米国・西欧も、高度成長の行き詰まりで資本輸出に向かい、現在の工業的空洞化と金融化とサービス産業化が結果した。労働者階級が増大し階級闘争が発展しながら、ケインズ主義の福祉国家に包摂されてブルジョア民主主義体制が成立していたが、現在、その空洞化が結果している。新自由主義によって労働者階級が経済的には上下 に、政治的には左右に大分裂している。レーニン・帝国主義論の言う腐朽性と寄生性。この傾向は、後発の資本主義・帝国主義にも共通する、一般的な傾向でしょう。そこで、現在、中国がどの地点にいるのかと考えたいと、「共同富裕と改革開放」(p38~61)および「米中対立とデリスキング」(p63~76)に注目したのですが、結論は分かりません。

中国が帝国主義化し、「一帯一路」でアジア・アフリカなど「南」を支配=覇権に組み込もう としているのは明白ですが、「北」の米欧日は金融―工業の関係だが、中国はまだ工業―資源の関係が基本で、したがって「世界の工場」はまだ続くのでしょう。国内的にも当面は「共同富裕」、つまり労働者階級が増大し階級闘争が発展するのを福祉国家で体制内に組み 込んでいくのでしょう。覇権闘争では、デカップリングでもデリスキングでも、「南」をバックにする中国に押されて、むしろ米欧日がブロック化に追い込まれるのではないか。

しかし、帝国主義である以上、いずれ中国は「南」と対立し、金融化して国内的な腐朽性 と寄生性を強め、その進行は先発の米欧日よりも速いでしょう。そのような問題意識で、

今回だけでなく、次回もフォーラムに参加します。(おわり)(2023.12.16)



■終わりの言葉(世界資本主義フォーラム顧問 河村哲二)


詳細な統計を示して中国経済の現状と課題について、お話しいただき、たいへん勉強にな りました。

中国経済はまだ大きな変化の途中と思いますので、またぜひ、お話しをお聞きしたいと思 います。

 本日は、ありがとうございました。



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